東京地方裁判所 昭和57年(ワ)3459号 判決 1983年7月25日
原告
宮原盛雄
原告
有限会社宮原製作所
右代表者
宮原盛雄
右原告ら訴訟代理人
早川俊幸
被告
山王交通株式会社
右代表者
中村千秋
被告
島田隆弘
右被告ら訴訟代理人
山川豊
須網隆夫
主文
一 被告らは各自原告宮原盛雄に対し金一六一万七、七一七円及び内金一四一万七、七一七円に対する昭和五五年三月一日から、内金二〇万円に対する昭和五七年四月二二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは各自原告有限会社宮原製作所に対し金三〇三万六、〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年四月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決の第一、第二項は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判<省略>
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生<省略>
2 被告らの責任<省略>
3 原告宮原の受傷の部位、程度
原告宮原(大正六年一〇月一日生)は、本件事故により左足背左足内側挫創、左膝関節内血腫、左膝内側側副靱帯挫傷、左膝外側打撲同部擦過傷、左下肢神経左脛骨神経不全マヒの傷害を受け、昭和五五年二月二九日から同年三月三一日まで三二日間京浜病院に入院し、同年四月一日から昭和五六年六月二九日まで同病院に通院したほか、昭和五五年八月、九月にマッサージにも通つている。
その結果、昭和五六年六月二九日症状固定と判断されたが、左膝痛あり、歩行時の不安定及び階段昇降時に急に歩けない等の後遺症が残り、自賠責保険において自賠法施行令別表一四級一〇号に該当するとの後遺症認定を受けた。
4 原告宮原の損害<省略>
5 原告会社の損害
(一) 休業補償費 金四八〇万円
原告会社は、センバン、フライスバン等により省力機械の金属部品、装置の加工組立を行なう原告宮原の個人会社である。本件事故前の実際の作業者は、原告宮原、長男である訴外宮原正春(三五歳)及びアルバイト一人の計三名であり、原告宮原は、右のほか、注文とり、支払い、集金、経理等もしていた。
原告宮原は、本件事故による受傷のため、昭和五五年二月二九日から昭和五六年六月二九日まで一六か月間休業したが、原告会社では、対税上の問題もあり、労務の対価を得ずに、休業補償金四八〇万円(一か月金三〇万円の一六か月分)を支払つた。原告会社から支給される原告宮原の月給金三〇万円は全部労務の対価であり、現に原告宮原の休業のため、他に勤務していた次男である訴外宮原勝則(二八歳)が本件事故後原告宮原の労働をうめるために働いている。したがつて、原告会社は、民法四二二条の類推適用、もしくは第三者弁済に準じて、もしくは事務管理の償還請求権により、もしくは直接損害として、被告らに対し右金四八〇万円の請求権がある。<以下、省略>
理由
一〜三<省略>
四原告宮原の受傷の部位、程度について判断するに、<証拠>によれば、請求原因3の事実(ただし、甲第八号証によれば、通院日は昭和五六年六月三〇日までとなつている。)を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
五<省略>
六原告会社の損害について判断する。
<証拠>によれば、原告会社は、工作機械部品の製作並びに販売を業とする資本金三〇〇万円の有限会社であり、原告宮原が個人で営んでいたものを昭和四八年一二月五日に会社組織にしたものであること、事故当時は、原告宮原、長男である訴外宮原正春及びアルバイト一名の三名が稼働しており、原告宮原は、機械部品の加工、組立等の現業の仕事のほか、受注、集金、経理等の仕事もしており、原告会社は原告宮原の個人会社というべき実態であつたこと、原告宮原は、事故前、原告会社から年収金三六〇万円(一か月金三〇万円)の報酬を得ていたが、それは労務の対価である賃金というべきものであつたこと、原告宮原は、事故後、受傷のため稼働することができなくなつたにもかかわらず、原告会社から対税上の関係もあつて、引き続き一か月金三〇万円の報酬の支払を受けていたこと、原告の休業をうめるため、他に勤務していた二男である訴外宮原勝則が勤めを辞め、本件事故後原告会社で働いていること、原告宮原は、退院後、現業の仕事はしていないが、受注、支払い、経理等の仕事はある程度できたこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、原告会社は原告宮原の個人会社と認められるから、原告会社がその受けた損害を直接被告らに対し請求するとの構成も可能であるが、本件では、原告会社が原告宮原に支払つた報酬分の支払を求めるものであるから、それは原告宮原が休業損害として被告らに対し請求できるものを原告会社が肩代りして支払つたものの請求ということになる。したがつて、単的に肩代りして支払つたものの求償ないし償還請求と解する方が簡便であり、しかも本件における右肩代りは法律上の義務に基づくものとはいえないから、本件における請求は、弁済者の任意代位(民法四九九条)あるいは事務管理(民法七〇二条)の法理を類推適用して認めるのが相当である。
ところで、原告宮原の受傷から症状固定まで一六か月間あるが、通院期間中は次第に症状が軽快していつたものと認めるのが経験則に合致し、かつその間個人会社の特質からして事務的仕事には従事しえたわけであるから、右のような事情を考慮し、原告宮原の休業は、当初六か月間を一〇〇パーセント、次の六か月間を七〇パーセント、残りの四か月間を四〇パーセントの就労不能ないし就労制限があつたと推認し、休業損害を算定するのが合理的であると考える。してみると、相当因果関係ある原告宮原の休業損害額は金三五四万円になり、原告会社が被告らに対し請求しうる金額も右と同額になるといわなくてはならない。<以下、省略>
(武田聿弘)
交通事故現場見取図<省略>